文化財建造物の木材
旧浜離宮松の茶屋・復元工事と長期保存技術
江戸時代の将軍家の茶屋を復元させるためには、多くの構造材に長期保存技術が採用されました。しかし、硬い大径木の日本ツガもあり、注入は高度な技術を要しました。以下に改質剤の注入⇒バイオ乾燥⇒完成品までのプロセスを紹介します。
- 赤松(岩手県産)の丸太。復元工事の構造材には赤松、日本ツガ、スギ、ヒノキなどが使用されました。
- 赤松丸太の長さは3m~6m、太さは20cm~30cmまで様々でした。
- 薬剤注入ステップ: 薬剤は、防腐・防虫剤、割れ防止剤、曲がり防止剤であり、背割り無しで薬剤処理されました。
- 日本ツガ(大断面)とヒノキ(150角)の薬剤注入。ツガのような硬質材には分子量が小さな薬剤を使用する事と、他の薬剤との親和性、調合性を事前に十分テストする必要性があります。
- 乾燥ステップ: 木で木を乾燥させるバイオ乾燥機。
- 超低温(35℃)で乾燥することにより、注入された薬剤が放出されるのを防ぎます。薬剤注入材は天然乾燥では1年かけても乾燥するのが困難であるため、従来は高温乾燥機(80℃~230℃)を使用しましたが、高温であるため細胞が破壊され、破壊された細胞の間隙から薬剤の多くが徐々に放出し続けるため長期保存効果がほとんど失われてしまう。
- 検品のステップ: 国による材料の検品。旧浜離宮・松の茶屋復元工事は東京都、宮内庁、国交省、文科省が委員会を設置し、工事開始前に委員会メンバーにより各部材を検証されました。
- 加工のステップ: 検品後の加工作業。薬剤注入・乾燥された赤松構造材は宮大工により加工されました。長さ6m、太さ30cmの赤松。
- 加工は全て江戸時代の宮大工工法により匠の手作業で実施されました。
- 丸太構造材の横面に線が見えますが、これは割れではなく、黒墨の跡です。薬剤注入材には一切の割れはありません。構造材は日本ツガと赤松が交差しています。
- 木口面の年輪部位には白いものが見えますが、これは乾燥機の中で薬剤が結晶化されたものです。切り口の内部には薬剤を目視することは出来ませんが、薬剤は細胞の全てに注入されています。
- 上から見た天井の構造材。
- 下から見た天井の構造材。
- 屋根の構造材。
- 屋根の完成。